直線線路

 自宅や広場で車両を走らせようとすると,組立て式の線路が欲しくなります. しかしメーカー製の完成線路価格はNゲージのものより2桁以上高価で,ちょっとしたエンドレス分でも簡単に揃えられるものではありません. そこでこれも自作に挑戦しました.

レールと枕木

 初めにレールの材料を物色し,建設資材のアングル,電気工事用のチャンネル,戸車用のレールなどを検討しましたが, いずれも車輪に対して幅が小さすぎ,またレールの雰囲気もありません. そこでここでもモデルニクス社の定尺レールにお世話になることにして材質を検討し, サビの心配がないことからアルミ製(材質A6061,定尺3m,当時@\1750)を購入することにしました.
 次に問題なのは枕木です. 本物のように木で作れば良いのですが,結構な本数が必要で角材の価格もバカにならず,文字通りの「金を失う道」を実感した次第です. また木を使うと完成後の軌框が重くなるうえ,雨ざらしなるので腐食対策もしなければなりません. さらにメーカー品のように金属板にすると,当鉄道の設置予定場所である屋上の防水シートを傷つける恐れがありました. そこで例によってホームセンター内を探し回り,コンクリート打設時の型枠に使用する「発泡目地棒」というものを見つけました. ポリスチレン製の茶色のもので,ツメで押すと傷つくような一見柔らかめの素材ですが,中は意外としっかりしています. 断面形状はPC枕木に,風合は樹脂枕木にそっくりで,なにより安価・軽量です. いろいろなサイズのものがあるようなのでメーカー(潟Aークエース)からカタログを取り寄せ,枕木として適当な大きさのものを探しました. その結果,断面が台形(上面25mm,下面30mm,高さ15mm)のK-14Wというものが良かろうということで, 定尺2m,50本入り1箱を買いました(箱売りのみ:当時\9,450/箱). 本物の並枕木の長さが2100mmなので,1/8.4スケールの250mmを定尺として大量に切断しました.

締結方法

 次は枕木へのレール締結方法ですが,数が多いので安価で丈夫な方法を探すのが課題となります. 技巧舎製の犬釘やタイプレートが候補となりましたが,犬釘は目地棒への長期安定性に不安(抜ける?)があり,またタイプレートは価格(@\20)の観点から断念しました. 実物の弾性締結ばねクリップに似たものがないかと探しましたが,特殊な形状のモノなのでそう簡単に見つからず,やむなくねじだけで固定する方法を試しました. その結果,頭の大きなトラスタイプのタッピングビスφ4×12mm(@\5円)をレール下方に向かうように斜めに打ち込み, 枕木に頭部が食い込むと同時にレール側面を押さえ込むことで, どうにか固定する目処を得ました.
 始めにビスを打ち込む場所を,枕木カバー式のアルミを折曲げたジグによりポンチでマーキングします. 穴はゲージが127mmとなるようレール底面幅とビス径を基に決めますが,この例では基準側から48mm,+19mm,+116mm,+19mm,(残り48mm:合計250mm)としています. 次に枕木をおよそ15度斜めにセットする木製傾斜台を用いて,ポンチ跡に従ってボール盤で斜めにφ1.5mm程度の導孔を開けます. これはねじを斜めに正確に打ち込むのにどうしても必要です. レールの両側で斜めの向きが異なるのと,本数が非常に多いので,ひたすら根気のいる作業です.

軌框の組立て

 枕木のピッチは実物では25mあたり44〜34本とのことで,1/8.4スケールに直すと67〜87mmピッチとなります. しかし少しでも本数を減らして楽をしたかったので,切り良く大き目の100mピッチと簡易軽便線仕様としました.
 まず□30cm程度の端材を用いて組み立て用のジグを製作します. この上にレールをゲージ127mmで固定できるように余った角鉄パイプでガイドを設けるとともに, 枕木を100mmピッチで送れるようにアルミアングルを固定します. ねじ留めする部分は,両側にアングルを建てて枕木がずれないようします. レールをセットして上から木製のガイドで押さえつけ,この間にドライバドリルでタッピングビスを導孔に斜めに打ち込んでいきます. 固定が終わったらレールを持ち上げてガイドを1ピッチずらし,同じ事を繰り返していきます. ちょうど保線機械のビッグワンダーのように,ステップ・バイ・ステップで 軌框(ききょう:レールと枕木がハシゴ状になったもの)に組みあげるわけです.

継目板

 レールの継目は,実物同様,穴あき継ぎ目板で両側からねじ留めするのが正式な方法です. ここでは組み立て取り外しを容易にするため,片側のみをねじ留めし,一方は挟み込み式の簡易継目板を自作しました. 厚さ2mm,幅8mmのステンレス帯金を入手し,長さ50mmに切断,一端から8mm,+15mmの位置に穴あけを行い,M3のステンレスねじナットで固定しました. 進行方向左側が固定端で,NやHOのレールと同様,レール同士をつき合わせて嵌め合わせます. 継目板の内側を少し斜めに削っておくと,スムーズに入ります. この場合,15mm程度が相手のレールに嵌め合わされますが,案外としっかりしています. 今ひとつ強度が不安な場合は,継目直下に枕木を余分に置いて「ささえ継ぎ」にすればOKです. なお,レールへのボルト穴あけは,端面から10mm,+15mmで,側を問わずすべてに加工してあります.



pdf図面

その他

 この枕木は熱に対する耐性が無いため,火気を使用するライブスチームには使用できません. また,日光の紫外線による表面劣化があるようで,寿命は5年程度と短いかも知れません. ねじのみによる固定方法はイマイチ弱く,中央部を横向きに持ったり,レール相互に反対方向の力がかかると, 軌框の「目」が「」となる場合があるので,取り扱いに注意が必要です.
 根本的な解決法として,射出成型で作った専用プラ枕木のようなものが安価に出回ればよいのですが.

   


曲線線路

 曲線線路を作るにあたっては,
 @スラックを何mmにするか,
 A半径をどのくらいにするか
が課題です. 本物の鉄道では,曲線半径をR(m)とすると,スラック=6000/R(mm)で与えられ, R≦170mでは最大30mmと決められています. これを1/8.4スケールにすると3.6mmとなりますが,切り良く3mmとしゲージが130mmとなるようにしました. 一方Rは,曲線抵抗を小さくする観点から大きいほど良いですが, 設置場所が狭隘な場合はなるべく小さいものが欲しくなります. ここでは半径を小さくしたいのと,定尺のレール長3040mmから無駄なく曲線線路90度1組を作ることを念頭に半径を決めました. レール幅による内外差を無視して,レール間中央をRとすると,
 π(R+65)/2【外側長】 + π(R-65)/2【内側長】 = 3040【レール定尺】
よりR=968mmが得られ,これを基にレールを1623mmと1417mm切断しました(切しろはテキト〜に按分).

レールの曲げ

 曲線線路はレールをきれいに曲げるという作業が基本で,手で適当に折り曲げたのでは凸凹の曲線となって美しくありません. そこで,中古の平バイスを改造して,レール折曲機を作りました. レールの横にぴったり食込むベアリング(幅8mm,直径24mm,軸径8mm;628タイプ)を3個用いて, 2個を固定側のアゴに,1個を移動側のアゴにタップを切ってM8ボルトで取り付けてあります. ここにレールの一端をはさんでアゴをRに応じて送ったあと,レールを手で通して曲げ癖をつけるものです. 必要なアゴの送り量は2個のベアリング中心間隔(本例では100mm)と半径により計算できますが,せいぜい1〜2mm程度です. 計算通り送って曲げても,材料の戻りがあるため正確に設定するのは難しいので, ベニヤに実物大のRを画いて比較し,ぴったり合うように調整しながら曲げていきます. 両端の数cm(ベアリング間隔の半分)はどうしても曲げクセがつきませんが,ここは眼をつぶります. また水平方向に多少ねじれることがありますが,枕木への固定でどうにかできます.

締結方法

 枕木への締結方法は直線の場合と同じですが,ここではスラックの分だけゲージを広くした導孔を持つ曲線用枕木を用います. ジグも製作が難しいので,ベニヤの実物大下書き板を用いて,枕木の位置決めをします. ここでは中心角6度おき,15本の枕木で固定しました. 130mm用の木製ゲージ2個を使って固定する枕木の両側でレールを押さえつけ,タッピングビスを打ちます. この際,両端,中央,さらにその真ん中と,隙間が半分ずつになるよう固定していきます. また両端の枕木のみ直線用の127mmゲージのものを用い,直線線路との接続を確保します. 変な形になっても心配せず,型に従って押さえつけながら固定していくと,意外とそれらしく形になってきます. レールの長さは一端で不揃いとなる場合があるので,現物あわせで糸鋸で切断します. 直線に比べると寸法精度は出にくいですが,もともとスラックがある部分なので,脱線しなければ良いという工作水準を目指せば十分です. なお,この線路は低速運転を前提としているため,カントと緩和曲線については全く考慮していません.

その他

 本線路は半径が急なため(実物換算でR=8.1m)通過がかなり厳しく,路面電車の交差点カーブのように, 手前から加速して突っ込まないと曲がりきれないという結果になりました. 実際に曲がる様子を観察すると,レールへのアタック角がどうこうという以前に,フランジが外側レールの頭に当たってしまい, これが曲線抵抗の主要因となっています. また,内側と外側の行程(車でいう内輪差)が異なり過ぎるため,ガードレールも効果がなさそうで, 独立回転車輪を用いない限り本質的な改善は難しそうです. 結局,本物同様フランジに塗油する以外なく,CRC5-56などの潤滑剤のお世話になっています. 余裕のある場合はもう少し大きなRの採用をお勧めしますが,これでもマイ線路の役割は果たしています.