概 要
客車(コーチ:coarch)は5インチゲージ車両の工作の基本として適当で,
これだけ先に製作して線路上を動かしたり,乗ってみるだけでも十分に楽しめます.
この手の車両構造としては,屋根無しオープンスタイルを基本とし,
@進行方向に椅子が連なる形式(遊園地等で見られる特急型),
A長椅子にまたがって座る跨座式(モノレール型)
が代表的なものです.前者は足が完全に床上にあるため走行中の安全が確保できますが,
長手方向の床板強度を増すための補強が必要で,椅子も多く並べるため車両重量が大きくなりがちです.
跨座式はレール方向に通し梁を用いることで,簡単な構造で十分な強度を持たせることが出来るので,DIY工作として適当と思われます.
一般に5インチの車両は質量が大きいため,初めから軽量化に配慮しないと移動や片付けで思わぬ苦労をすることとなります.
ここでは車のトランクに積載可能で,家庭での収納時にも取扱い易い大きさとして,
車体長1200mm,床幅300mmの木製客車の例を示します.
pdf図面
車 体
構成
車体は工作の手間と板材の無駄を省くとともに,切断面をきっちり出すため,極力,プレカットの材料を使用しました.
その他の部材もホームセンターで安価に入手可能な材料を使用しています.
床板は15mm厚のコンパネ(耐水ベニヤ)で,幅300mm,長さ1200mmのプレカット品を見つけこれを用いました.
座席部分は,厚さ1",幅5.5",長さ8ftの2×4材から1200mmを2本カットしてT型に組み合わせます.
両端に大型のT型金具を用いて直角が出るようにねじで固定したあと,
上面から100mmピッチで長めのコーススレッド(電動ドライバ用木ねじ)を打ち込んでいきます.
次に2×4材用の補強用三角金具4個を用いて,T型座席を床板対して直角に立て込みます.
この際,金具の高さが座席の下面高さと一致するように,あらかじめ上部をカットしておきます.
最後に床下面からコーススレッドを打ち込んで固定するとともに,
座席面にタンス用のプラ取手を座面下からねじ留めします.
このような車体構造を採ることにより断面がレールと同様のエ型になるので, 上からの曲げ荷重に強い構造が実現できます.
1200mmという車体長では大人3人がどうにか乗車可能で(40cm/人),分布荷重として400kgf程度の重量に耐えられると思います.
長さや板厚を増すことで大型化も可能ですが,車体質量(約10kg)を考えると,一人で楽に取り扱えるのはこの程度がいいところでしょう.
また,2×4材は角が面取りされていて座席に都合が良いですが,5.5"(≒140mm)という座面幅は大人にはちょっと狭い感じです.
床下
床下には台車を受ける枕梁と,連結器が備えられています.
固定用のねじ穴は貫通穴を開けたあと, 床板上面からM4のツメつきナットを打ち込み,
下からのねじ止めが楽にできる構造としました.
台車を受ける枕梁は車輪が床板に当たらないように,9mm厚のコンパネで高さを調整するとともに台車周辺を補強するとともに,
10mm厚のゴム板を敷いて振動やローリングを吸収させる簡単な構造です.
M4皿ねじ4本により,心皿金具を固定します.
細かいところでは,コンパネの角が当たってササクレ易いので隅金具で保護してあるのと,
立てて物置に収納するとき車体が真っ直ぐに立つよう, タイコ鋲で床へのアタリ具合を調整してあります.
ここまでのおおよその製作費は@\5000〜7000といったところです.
台 車
構成
台車は最も重要な部品ですが,車体のようには簡単にいきません.
台車枠についてはパイプ工作で行うことが出来る目処をつけたのですが,車輪は難題です.
戸車やプーリーの直径の大きなものをホームセンターで探してみましたがなかなか見つからず,
あっても1輪で数千円と高価な上,片方のフランジを落とすため旋盤加工が必要となります.
そんなときにモデルニクス社の輪軸の完成品があることを知り,これを購入しました(当時@\5000).
実物φ860mmの1/8.4のスケール品で,φ102mmのプレート車輪です.
ここではこれを用いた軸距200mmのボギー台車の例を示します.
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軸径は15mmなので,両側を15mm用のピローユニット(自動調心玉軸受けと鞍型の支持金具が一体になったもの;NTN製ASPP201,@\725)により支持します.
金具の穴には台枠に固定されたボルトが通っており,ユニット自身が上下方向にフリーに動くことができます.
抜防止のためボルト先端にナイロンナットを設置していますが,割りピン等を挿しても構いません.
台車枠の荷重はボルトと同軸に設置されたコイルばねによりピローユニット→車軸へと伝達され,ちょうど201系のDT48と同様の軸ばね支持方式となっています.
当然のことながら揺れ枕や側受けのような大掛かりなものは省略し,□100mmの回転テーブル用金具(MARUNA製CP-100,@\1280)を心皿代わりに用いました.
ピッチングとローリングは,心皿と車体間のゴム板と軸ばねで吸収します.
もっともここで横着をしたおかげで,あとで側受けを新設する羽目になりました.
コイルばねはプレス金型用の既製品で,中にM8ボルトを通すことが可能で,自由長が45mmのものを用いました.
難しいのがばね定数の設定で,こればかりは机上設計ではどうにもならず数種類のものを購入し,
乗車人員・大人子供などの荷重条件を変えて,乗り心地やフランジと床板の隙間に関する実地試験を行いました.
その結果,軽荷重用と呼ばれるばね定数23N/mm(2.4kgf/mm)のものを使用しています.
このあたりは使用条件により変える必要があります.
台車工作の最難関が台車枠の製作です.輪軸が重いため枠を軽く丈夫に作らないと,重くて持てないということになりかねません.
ここでは軽量化と強度を両立する材料として,亜鉛メッキの鉄製角パイプを用いました.
□16mmのもので,ホームセンターで定尺モノ(910mmまたはこの倍)が容易に入手出来ます.
初めに定められた寸法に切りますが,金ノコで切ると切断面の直角が出にくいので,回転砥石方式の切断機を用いたほうがbetterです.
もっとも根性で端面をやすり仕上げをすれば同じですが.
台車枠はピローユニットに乗る長手方向の2本と,心皿が乗る2本の横方向の部材からなる単純な形状です.問題はその接合で,
@溶接を用いる
A金具を用いてねじ接合する
の2通りを行いました.
溶接
最近では1万円以下の安価な小型溶接機が出回っており,家庭用電源で小物の溶接を行うことが出来ます.
筆者は溶接の経験が全くありませんでしたが,溶接機を買い込み台車枠作製に挑戦しました.
その結果,まずアークが簡単に出せない,溶接棒の移動の仕方がわからん(見えない),溶接棒が工作物にくっついて取れなくなる,
アークを当てすぎパイプに穴を開けてしまう(ブローホール)など,散々な結果でした.
何よりバチバチいう音と火花が恐ろしい反面,溶接棒の移動が非常に繊細な作業であることを思い知りました .
材料と溶接棒をかなり無駄にしながらも,いろいろやっているうちにどうにか台車枠を組み上げ,
溶接のビード(盛り上がった部分)をディスクグラインダで仕上げたときは,ほっとするとともに感動モノでした.
驚くべきはその強度です.
一方を万力にはさんで反対に体重をかけても手が痛くなるだけでビクともせず,流石に半田やロウ付けとは威力が違うことを実感しました.
苦労は多いと思いますが,5インチ車両に挑戦する以上,溶接の習得も一つの勉強と思います.
なお安全対策として,フューム(溶融金属微粒子の煙)を吸い込まないようマスクが必要なのと,十分な火花対策(防火・火傷)が必要です.
金具ねじ留め
もう一つはL型金具や一文字金具を用いて台車枠を構成する方法です. 写真のように上下両面を一文字とL型金具で留めます.
さらに内側を厚手のL型金具で補強することにより,ねじれに対する剛性が増します.
工作自身は楽ですが,金具にあいている穴の数だけパイプにタップを切らねばならず,要はここで根気と根性を発揮できるかどうかということでしょう.
ねじは緩み止め(アロン緩み止めなど)を施して締めており,塗装とあいまって,これまでの走行では緩みは生じていません.
側受
初めのうちは回転テーブル金具のカシメ部分が硬くてローリングはほとんど起こらなかったのですが,
乗車を重ねるうちに緩みが出てロールが大きくなり危険になったので,側受(がわうけ)を後付けしました.
本物の側受は上からの荷重を担うと同時に,摩擦によりヨーイングを抑制する効果がありますが,
ここではローラーにより荷重を受けることのみを目的とします.
面圧が大きくても床板がへこまないように,戸車の車輪をプラスチック製の平らなローラーフォロワに交換し,台車枠上にねじ止めしました.
この際,ワッシャをシム代わりに用いて高さを調整し,枕梁板へのアタリを調整します.
取付け
台車はM4の皿ねじ4本により,床板に固定します.
この際,座面の取っ手を傷つけないように,端材で枕のようなものを作って下に敷くと便利です.
台車1台あたりの質量は5.8kgで,車両全体では約23kgとなるので,バラして別々にしないと重くて持ち運び出来ません.
連結器
5インチゲージ用の自動連結器は@\数千円と高価ですし,鋳物なので自作できるシロモノではありません.
ナローゲージで使用される朝顔形連結器が簡単で作りやすそうですが,ここでもさらに楽に作れるものが無いかホームセンター内を物色し,
φ25mmキャスターの金具部分のみを使用したピンリンク・カプラーを製作しました.
ただ作るだけでは芸が無いので,車体から飛び出して移動や収納の邪魔にならないよう,伸縮式としています.
うまい具合に□16mmパイプと一つ上のサイズの□20mmパイプが入れ子になるので,シャンクの部分はこれを利用し,ねじ穴の位置により伸縮を調整します.
キャスター金具,取付け用一文字金具との接合は点付け溶接によっています.
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収納の手間を考え,上側エンドにはドローバーを常時取り付け,下側エンドのみ伸縮させています.
連結には太目の割りピンを挿せば十分ですが,運転会で途中分離した経験があるので,ねじと緩み止めナットによりしっかり固定したほうが心配がありません.
ドローバーの長さは最小通過半径に依存し,急カーブがある路線では車体隅同士のアタリを避けるため長くする必要があります.
このカプラ構造ではピンの力を受ける部分が数ミリしかなく引張強度を心配したのですが,今のところ問題なく使用できています.
なお当初床板への直付けだったのですが,車輪のフランジがあたることがわかったので,一文字金具を床板に埋め込み突出量を小さくしてます.
塗装ほか
塗装は一般的な塗料によっています.
構体は水性ペイント,台車は亜鉛サビ止めを施したあと,ラッカーまたはアクリルペイントで仕上げています.
車輪もサビ止めのため,踏面と軸末端部以外は亜鉛塗料を塗っています.
塗装はかなり自由が効き,車両の印象が変わるところなので,いろいろ工夫すると面白いと思います.
走行後の手入れでは,特に雨上がりに走行させるとドロが付きサビの原因となるので,十分な拭き取り清掃が必要です.
ベアリングの注油については,シール品を用いている限りは不要です.
この車両は,自社の屋上レイアウトでは曲線抵抗が大きいうえ,
連結器も台車マウントにしないとカーブに向きが追従できず,
もっぱら運転会等の他社線乗り入れ用となっています.