車止めの種類        戻り:ブラウザのバックボタン

 車止めは車両の逸走を防止するため線路末端に設けられる保安設備で, 通常良く見られる砂利盛りやレールの塔状のものには緩衝機能はありません. しかし経済的に有利なため,数の上ではこれらの車止めが圧倒的です. 国鉄時代の分類により第1種から3種がありますが,これらを複数混合して用いたものも多く見られます. また,コンクリート制走堤を第4種とすることもあるようですが,新幹線用の規定のようです.

非緩衝式車止めの例

第1種車止め
砂利を盛っただけの簡単なもの(西武・西武園駅)

第2種車止め
レールを搭状に組んだもの(神奈川臨海・横浜本牧駅)

第3種車止め
鋳物プレートを設置.曲げレールの場合もあり(京急・新逗子駅)

制走堤
コンクリートの強固な壁(東急・長津田検車区)

 緩衝式車止めは下図のように衝撃吸収機能を有し,衝突時の衝撃を緩和して 車両とホーム等の建築物の双方を保護する目的で設置される保安設備です. これらは非緩衝式のように系統的な分類がなされているわけではなく,また設置基準等についても明らかではありません. しかし安全面と経済性を勘案して,やはり大都市のターミナル駅の末端に設置されることが多いようです.

 緩衝式車止めで吸収可能なエネルギーは,緩衝機の抗力FとストロークSの積により決まり, これが車両の運動エネルギー1/2・mv2と等しくなります. これより衝突時の初速vは,v=√2FS/mから求まります.計算してみるとわかりますが,数百トンの質量を持つ車両を止めるには,数十トンの抵抗力を持つ 緩衝機を用いても,vはせいぜい10km/h以下です.結局「緩衝式」だからといってどんなに高速で突っ込んでも大丈夫というわけではなく, 衝突の衝撃を多少和らげてくれる補助装置として考える必要があります.


 緩衝式車止めの構造        戻り:ブラウザのバックボタン

 大部分の緩衝式車止めは,
  1)車体や連結器を受け止めるバンパー
  2)運動エネルギーを吸収する緩衝機
  3)全体を路盤に固定するアンカー
の3つの部分から構成されています.

1)バンパー

 バンパーには大別して,
  (a)オンレール走行型:レール上を台車用の構造が走行,
  (b)アーム型:バンパーから両脇にアームを張り出し, ホーム構造等に設けた専用ガイドレール機構を走行
の2種類のものが良く見かけられます.


(b)は古いものに多く,衝突時にバンパーがヨーイング(進行方向水平周りの回転)しないように支点間を広く取った設計と思われますが, ガイドレールを別途設けねばならず,土木構造に手間がかかります. オンレール型は,両フランジの4輪でレール上を走行するので,脱線しないように前部に特別な脱線防止ローラーを設けレールを挟み込んでいます. 最近設置されたものでは,設置が簡易なオンレール型のバンパーが圧倒的です. 中央にはカプラーポケットのような構造物が設けられていますが,自連のナックルが付いているものも存在します. また簡易なものとして,バンパーがカプラ受けのみで,緩衝機部分に直接付いている構造のものもあります.
バンパーの実例

オンレール走行型バンパー(西武新宿駅2番線)

アーム型バンパー(西武新宿駅1番線)

箱型カプラー受けのみの簡易型(西武新宿駅3番線)

クワガタ様の簡易バンパー+ハニカム緩衝機(東武・大師前駅)

2)緩衝機

 緩衝機に関しては「油圧ダンパ」を用いたものが圧倒的です. 車のショックアブソーバでおなじみですが,油圧ピストンシリンダ機構を用い,ピストンに設けた小孔(オリフィス)を油が出入する 時の抵抗を抗力として用います. 吸収容量はダンパの太さとストロークの積で決まりますが,設置長さを短くするため リンク機構を用いてストロークを縮小したものも有ります.
次に多いのが「ハニカム緩衝機」を用いたもので,航空機部材で有名なハニカム(蜂の巣状の六角構造)がつぶれるときの変形仕事で運動エネルギーを吸収します. 最近の自動車や鉄道車両のクラッッシャブルゾーンと同様のエネルギー吸収原理で,一度使うと交換する必要があります. 中空で軽いので小型のものに用いられることが多いですが,断面積を大きくすると大容量ものも構成可能です.
「レール摩擦ブレーキ」を用いたものは,最近私鉄で多く用いられています. 車止の下部にレールを両側から挟むブレーキシューを取り付け,衝突時にレールとの摩擦によりエネルギーを吸収するものです.
変わったものとして,砂利盛りにバンパーを突っ込ませ,この時の摩擦で衝突エネルギーを吸収する「砂利貫入式」がありますが, 年代的に古く極めて少数派です.
緩衝機の例

油圧ダンパの設置例(加古川駅6番線)

リンク機構によりストロークをL1/L2にした例.ダンパ上下動用のばねも見える(京成金町駅)

増設したレール摩擦ブレーキシュー(福島交通・福島駅)

めずらしい砂利貫入式バンパー(阪和線・東羽衣駅)

3)アンカー

 アンカーは衝突時に車止めがずれないよう,路盤に強固に固定されている必要があります. 鋼製の門型が一般的ですが,ホームや地下トンネルと一体化したコンクリート構造として設置されている場合もあります.
アンカーの例

鋼製門型アンカーをトンネル壁に直結(TX・秋葉原駅2番線)

独特のV型コンクリート枠のアンカー構造(新京成・松戸駅8番線)


 主要メーカーと特徴        戻り:ブラウザのバックボタン

 緩衝式車止めのメーカーとしては
  1)日本車両
  2)京三製作所
  3)Rawie社
の3社が主なところで,少数ながら鉄道会社の自社生産やメーカー不明品があります. 国内のおおよそのシェアは以下の通りです.
メーカー別国内シェア(2012年8月までの調査概数)
日本車両 京三製作所 Rawie社 自社生産・不明 総数
114 57 31 20 222

1)日本車両

 国内の緩衝式車止めの過半数を占め,業界標準的なところがあります. 外観的にはバンパーがアーム型とオンレール走行型の2種類あり, さらに緩衝機の結合方法によりリンク式と直結式に分けられます. この組み合わせにより,
  a)アーム型/リンク式
  b)アーム型/直結式
  c)オンレール型/リンク式
  d)オンレール型/直結式
の4通りが存在します. 数の上からはd)が圧倒しており,次いでb)→a)→c)の順となっています. 一般にアーム型は古いものに多く,1983年を境にオンレール型に移行したようです. 日車の緩衝機にはカヤバ工業製のダンパが使用されており, 日車の銘板と並んでカヤバの銘板も掲出されていることが多いです. また「誘導型油圧車止メ装置」と書かれている仕様に関する四角のプレート(仕様板)も取り付けられており, 抗力やストロークなどが記載されています. この記述は,2004年以降はSI単位に切り替えられています.
日車製車止銘板のバリエーション.各会社の社名変遷が分かる. 最近のものは仕様板の標記がt→kN,tm→kNmとSI単位系に変わっている.

2)京三製作所

 何といってもハニカム緩衝機を用いた車止めが特徴です. 小さなものは「ハニカム式カーストッパ」と称し,コンクリ制走堤から突き出すような形で設置されており, クワガタのようなカプラーガイドが目立ちます. また,大型のものはアーム式バンパーととも使用されており,鶴見線ホームのものは国内最大の吸収容量を持っています.
油圧ダンパを用いたものに関しても,設計に独特の工夫を凝らしたものが多く, 阪急・梅田駅に見られるワイヤーと油圧ダンパを用いてストロークを半分にした「ワイヤーロープ・ダブル緩衝式」や, 小型のオンレールまがいのリンク式車止め(阪急・西宮北口駅),通常とダンパ設置方向が逆の「油圧ダンパ・引張式」(北鉄金沢駅)など があります.
神戸高速・新開地駅で見られる「砂利貫入式」には京三のプレートが付いており,上野駅や東羽衣駅のものも同社製かもしれません.
京三製作所の例

ずらりと並んだハニカム式カーストッパ (相鉄・相模大塚駅)

カーストッパの銘板例(相鉄・相模大塚駅)

ハニカム緩衝機の銘板(鶴見駅)

砂利貫入式の銘板(神戸高速・新開地駅)

3)Rawie社

 Rawie(ラヴィー)社は1882年創業のドイツの緩衝式車止めの老舗で,日本では伊岳商事鰍ェ代理店になっています. 会社名は創業者の姓に由来しており,1902年にフランクフルト駅で起こったオリエントエキスプレスの事故に創業者が心を痛め, 緩衝式車止めの開発につながったとのことです(同社HPによる).
レールをブレーキシューで挟み込んだような独特の機構で,衝突時に車止めがスライドしながら レールとの摩擦でエネルギーを吸収する方式です(同社製品名:Friction Buffer Stop). シューの数により容量が異なるほか,カプラ受けに油圧ダンパの有無があります. ダンパには,英国老舗航空機部品メーカーのOLEO社のものを使用しています. 近年,私鉄のターミナルに設置されているものが多く,ヨーロッパ風の塗装と相まって目を引きます.

ロマンスカーVSEとRawie社車止め(小田急・新宿駅)

Rawie社銘板(小田急・新宿駅)

Rawie社仕様板(小田急・新宿駅)

英国オレオ社の油圧ダンパ銘板(小田急・新宿駅)

レールブレーキシュー設置の様子(京急・新逗子駅)
同社のHPでは,緩衝式車止めが実際に働く様子を動画で見ることが出来ます. また,日本では見られないタイプの車止めも紹介されています(独/英/西語). 国内では伊岳商事鰍ェ代理店となっており,動画の一部が紹介されています (各URLは社名で検索するとすぐ出ます).


 緩衝式車止めの国内分布        戻り:ブラウザのバックボタン

 実地調査に基づいた分については,以下のpdfファイルにまとめてあります(適宜更新します). ただし,調査漏れ,銘板データ読み取り不能等で完全ではありません. 私鉄ターミナル駅への設置が多いように見えますが,JRの駅はスルー方式が多くなり. 行き止り式ホームが少なくなったことを示唆しています. またJR西日本では,切欠きホーム部への新規設置が目立ちます.

1.国内分布一覧
2.日車製データ
3.京三製データ
4.Rawie製データ